2007年11月16日

ノーベル平和賞を受賞するにはどうすればいいか

最近下火になったが、「日本国憲法にノーベル賞を!」というキャンペーンが行なわれてきた。

日本国憲法には、官僚がNPOをいじめるときによく使う憲法89条をはじめ、おかしな条文や時代遅れな条文がたくさんあるが、戦争を絶対にしないという憲法9条だけは、ぜひとも後世に残すべき人類の知恵である。

「日本国憲法にノーベル賞を!」と言っている団体の人々に聞いてみたところ、オスロのノーベル委員会に皆で手紙を書いているという。下手な鉄砲数打ちゃ当たるのかな?と思ったものの、とても気になる。そこでオスロを訪問した折にノーベル財団を訪ねてみた。

▼平和賞の本部はストックホルムではなく、オスロだ
 
ノーベル財団の本拠地はストックホルムにあるが、オスロのノーベル財団はノーベル平和賞だけを扱うために、ノルウェー国会の管理のもとに運営されている。オスロの中心街からタクシーで10分ほど行った郊外にある古い建物でいかにも北欧の研究所という感じだ。一階の吹き抜け天井がとても高いのが印象的だった。

さっそく応対してくれた女性の担当者にたずねて見た。

「日本国憲法に平和賞をという動きがあることをご存知ですか」
「ええ、知っています。よく手紙が届きます」
「その手紙をどうしているのですか」
「返事は書きません。というか所定の推薦者以外の人からの手紙への返事は
書けないことになっています。推薦の要件を満たしていないからです」
「推薦の要件というのは、どうなっているのですか」
「推薦の資格を持った人による推薦書でなければだめです」
「では、推薦の資格を持った人が日本国憲法を候補として推薦すればいいわけですね」

「いいえ、推薦を受ける人は人物か団体でなければなりません。日本国憲法を推薦するというのは面白いアイデアですが、それを作った人とか、守っている組織とかでなければ受賞の対象になりません」

そう説明した彼女は、ノーベル賞の推薦システムの解説書を私に渡しながら、付け足した。

「この件では、たくさん手紙が届いているのですが、アン・プロダクティブであるということを日本の皆さんに伝えていただけませんか。推薦は資格を持った人が1通だけ、英文によるできるだけ詳細な推薦理由を書いて送ってくださればいいのです」

▼ノーベル委員会が受賞者を選考、推薦の多数とは無関係

ノルウェー国会は、5人の平和賞委員を任命し、極秘の審査ののちに授賞者を決定する。各国からデータを集めるのは、ノルウェーのノーベル財団であり、財団によって分析された後、5人の委員に届けられる。この5人へのロビー活動などは決して認められず、ノルウェー国会もその決定作業に関与することはできない。

ときどき「○年のノーベル賞にノミネートされた○○博士」などという文章を見かけるが、ノミネートの発表などは、一切なされないそうである。そうした文書を見たら詐欺師だと思ったたほうが良いだろう。

しかし最終選考に残った人物だけは発表されるので、「最終選考に残った○○」という表記なら、詐欺行為に当たらないであろう。

平和賞候補を推薦する資格があるのは、「今までの平和賞受賞者」「列国議会同盟メンバー」「国際法学会メンバー」「元ノーベル委員」などである。

この中で、列国議会(IPU)というのは耳慣れない団体であるが、この団体は全世界の国会議員が加盟する団体であり、日本の衆参両院の国会議員も自動的に加盟することになっている。従ってノーベル賞を与えたいなと思う人がいたら、国会議員に頼むのが一番近道だろう。

日本の国会議員も、時には推薦状を書く活動をしている。かつては日本の議員が中心になって佐藤栄作を強く推し、ノーベル平和賞受賞を実現した経緯がある。その後も、日本の国会議員は、中国の人権活動家や、日本のNGO活動家を強く推したことがあるが、最近の日本からの推薦活動は、下火のようである。

また、新聞で報じられている通り、佐藤栄作への授賞については、ノルウェー側もノーベル平和賞の趣旨にかなわないものではなかったかと考えているふしがある。ノーベル財団が学者に頼んで書いた歴代受賞者を詳述した書物の中でそのことに触れられている。残念ながら日本語訳は今のところないようだ。

佐藤栄作の受賞理由は、非核三原則を導入して、日本を核を持たない国にする努力をしたというものである。日本の核武装を恐れる国際社会に対して、強い安心感を与えることになった。しかし、ノーベル平和賞には、「受賞の是非を問う論争の的にならない人物」を選考するという基準がある。

佐藤栄作の場合は、日本国内での是非を問う論争が持ち上がり、特に野党支持者の人々がノーベル平和賞の権威を認めないようになってしまったという経緯がある。こうした結果が生じるような選考は、ノーベル賞が持つ信頼醸成を損なうことになる。ノーベル委員会はより慎重にならざるを得ないことになったのである。

その意味では07年のゴア氏の受賞も、アメリカ国内での環境グループからの批判が強いことから、将来、問題が起きる可能性があるといえよう。もちろん、委員会は米国内で騒動が起きるなどとは予測せずに、純粋に地球温暖化阻止のシンボルとして選考したのであろう。いささか調査不足であったと言えよう。

ノーベル財団の事務局長の話では、平和賞候補は毎年百人以上いるそうである。また過去には75万通の推薦の手紙が届いた候補もいると言う。その候補は、受賞することが出来なかったとのことだ。つまり組織票は役に立たないということを証明している。

従って、推薦の手紙の数は、財団への心理的圧力にはなるかも知れないが、選考への影響は極めて少ない。ではどうやって選考するかといえば、ノーベル財団の職員が推薦状に書かれている内容をもとに、候補者の経歴や業績を調べ上げ、事務局長がその膨大な資料を編集して、5人の委員に提出する。委員たちは8カ月にわたって、これらの資料を読み、不明点があれば何度もノーベル財団に質問し、追加調査を依頼する。

推薦状の締め切りは毎年1月の末頃である。(私の記憶が間違っているかも知れないので詳しくは直接ノーベル財団へ 電話+47 22 12 93 00 )

あなたもぜひ、これはと思う人の詳細な推薦状を作成して、知り合いの国会議員に頼み込んで、ノーベル財団に送ってみてはいかがだろう。そろそろ日本からノーベル平和賞受賞者を出してみたいものだ。
                      


posted by 菅原 秀 at 22:52| Comment(1) | TrackBack(1) | ノーベル平和賞のしくみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月05日

なぜノルウェーなのか?

12月10日は世界人権デーであると同時に、ノーベル平和賞の授賞式の日でもある。
ノーベル賞を創設したアルフレッド・ノーベルは、スウェーデン人であり、「物理学」、「化学」、「生理・医学」、「文学」、「経済学」の5つの部門はスウェーデンの首都ストックホルムで授賞式が行われる。しかし、もっとも有名なノーベル平和賞は隣国ノルウェーの国会から選ばれたノーべル委員会委員か選定、授賞式も首都オスロで行われる。どうしてだろうか?

▼なぜノルウェーなのだろうか?
 
ダイナマイトの発明で巨万の富をなしたスウェーデン人アルフレッド・ノーベルが、世界平和に貢献する賞を制定するよう遺言を残した結果が、ノーベル賞である。ノーベルは科学賞や文学賞などをスウェーデンの機関で扱うように指示し、一番重要な平和賞に関しては隣国のノルウェー国会で扱うように言い遺している。

 この疑問をスウェーデン人の友人にぶつけてみた。

「スウェーデンでは当時、王立アカデミーが幅を効かせていたのだが、そこに集まる学者たちはエゴイストの集団で、バランス感覚を必要とする平和賞を授賞する能力はなかった。ノーベルは学者たちの馬鹿さ加減に嫌気が差していたので、平和賞だけはノルウェーに任せようと考えたのさ。一番大事な平和賞がノルウェーに行ってしまったということは、スウェーデン人がいかに馬鹿かと言う歴史の証明だよ」
ともっともらしいことを言う。

 ノルウェー人の友人にこの話をしたら、げらげら笑い出した。

 「納得するね。実に正確な分析だ。でも、ノルウェー人もスウェーデン人に負けず劣らず十分に馬鹿だし、この計算で言ったら、どの国も平和賞なんて扱えないね。日本が扱うことにしたらどうだろう?」

▼もし日本が平和賞を担当したら?

 日本といわれて、ぎくりとした。日本がノーベル平和賞を扱ったら、さまざまな問題が噴出して、ノーベル平和賞はあっという間に空中分解するに違いない。

 そう考えると、ノルウェーがとっても立派な国に思えてきた。

「ま、あなたの質問はとても重要だと思う。ノルウェーの外交官だったら誰でも知っているはずだ。外交官に聞いてみるといい」

 たまたま招かれたレセプションで、ノルウェー大使館の一等書記官の女性に出会った。

 「スウェーデン人によれば、スウェーデン人は馬鹿なので、平和賞をコントロールする能力がないそうです。それで、ノルウェーに託したそうですが」
と話したとたん、彼女もまたげらげら笑い出し、床に転がりそうになりながら、居並ぶ外交官たちに、私のおかしな話を伝え、さらに笑い転げている。

「スウェーデン人が馬鹿だから、平和賞がノルウェーに来たなんて、ぜひオスロでそのジョークを話してください。大受けすると思うわ」
ひとしきり笑った後で、彼女は大まじめで、その理由を答えてくれた。

「スウェーデンは、フィンランドとは陸続きで、その先はロシアに続いています。さらにバルト海をはさんで、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ドイツ、デンマークの各国に対面しています。これら隣国との外交バランスの舵取りを永久にしなければならないというのが、スウェーデンの宿命です。それに対して、ノルウェーはスウェーデンという国によって、これらの外圧から緩和されています。また当時のスウェーデンとノルウェーは連立国家だったのです。ノーベルは平和賞の中立性を守るために、ノルウェーの存在を頭に描いていたのです。もちろんスウェーデンの人々もこのアイデアに賛成しました。スウェーデン人は地理的理由で国際共存のあり方にとても敏感だったので、こうした決定をしたのです。これで、スウェーデン人が馬鹿でないことが理解できたでしょう?」

 最近はノーベル平和賞自体を批判する態度が目につくようになってきた。2001年に平和賞を授賞した国連のアナン事務局長に対して、アメリカ政府がその地位から引き落とそうとする動きも活発だ。

 100年間にわたって平和賞を守り続けてきたノルウェーへの干渉を行うようになってきた世界は、とても危険な方向に動こうとしている。

(c) 菅原 秀2004加筆、初出「アジア記者クラブ通信」2001 


参考図書ノーベル賞100年のあゆみ〈5〉...ノーベル賞100年のあゆみ 5


posted by 菅原 秀 at 18:16| Comment(2) | TrackBack(0) | ノーベル平和賞のしくみ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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