2011年08月28日

空気で走る自動車は可能か(中)

前回「空気圧で走る自動車」の紹介をしたところ、「空気圧で自動車が走るというのは理論的におかしい。理論的に説明せよ」という批判があいついだ。残念ながら私は物理についてはまったくわからないので、疑問を感じる人はMDI社に問い合わせていただくしかない。フランスのニース郊外に工場と社屋があるので、直接訪ねてゆくのが一番効率的だと思う。

また「空気圧自動車」が実際に動いている動画が同社のホームページに出ているので、ご覧いただきたい。http://www.mdi.lu/ もちろん前回の原稿を批判した皆さんにとっては、「この動画は理論的におかしいので信頼性はない」ということなのだろうが、私は理論的な説明はできないものの、空気圧自動車開発の努力を否定することこそが、古い常識にとらわれているのではないかと思う。

さて2007年にタタ・モーターズがエアカー製造に乗り出すという発表をした頃から、MDI側は今まで明らかにしていなかった仕様や技術的な部分を積極的に発表するようになった。

■ エアカーの略称は”CAT”

タタ・モーターズが最初に想定しているエアカーは3人乗りの「ワン・キャット」と呼ばれるシリーズだ。「キャット」というのは「圧縮空気技術」(Compressed Air Technology)の略称で、今後、エアカーの総称となると思われる。

圧縮空気を装填するためにははエア・スタンドが必要だが、MDIのギー・ネグレ会長の解説では約2秒で満タンにでき、100キロ以上の走行が可能だという。また現在の試作車の最大時速は135キロとのことである。

圧縮空気の充填には電気が必要となるが、エア・スタンドでの充填の場合には満タンにするのに約2ユーロで済む。既存のガソリンスタンドにエア・スタンドを併設するのが極めて容易であると同時に、自宅での充填も可能であり、家庭電源を使った場合は4時間で満タンに出来るという。

圧縮空気は、あっというまに膨張してしまうので、ごく少ない量をピストンに送り込んで効率化をはかる必要がある。そのためにシリンダーは6気筒、あるいは少なくとも4気筒となっており、圧縮空気がピストンを動かしてエンジンを動かすと同時に、そのピストンが空気を圧縮してボンベに送り込むという作業が行われる。

したがって走行中に圧縮空気が補填されることとなるので、初回の空気圧縮の際に必要な電気を除けば、国連が規定しているゼロ・エミッションの理念を実現できることになる。オイル交換のほうも4万8千キロに一回で済むとのことで、極めて経済的だ。

またエンジンには発電機が併設されており、チャージされた電気によって発進、停車、駐車場入れなどに必要な動力源を得るしくみとなっている。ある意味ではハイブリッド車であるとも言えよう。

ボディーのほうも炭素繊維でできており、ボンベやエンジンが比較的重い欠点を軽量さでカバーしている。

現在のMDIの試験車両は、エンジンの特殊性とボディーの材質のせいで、走行時に「パタパタ」という騒音が発生する。愛嬌のある音なのだが、この音を軽減する工夫も必要であろう。


■ 低価格車路線への批判

タタ・モーターズではこの新しいエアカーを同社の軽乗用車「ナノ」シリーズのひとつに加え、2000ドル台という脅威の低価格での販売に踏み切るという攻勢を計画しているようだ。

そのために経費のかかるエアコン装置などを装填しないモデルの発売に踏み切る計画で、愛嬌のある騒音もそのままにする可能性が高い。「燃料はタダの上に価格はモーターバイク並」という路線を貫こうという考えのようだ。

しかしタタ・モーターズがスポンサーともなっているTERI財団のパチャウリ博士(2007年ノーベル平和賞受賞機関IPCC議長)は、同社の低価格車販売作戦を以前から強く批判し、「国民の誰もが車を購入できるようになれば、インド国内の空気汚染は深刻化し、都市機能が完全に麻痺する」という強い警告を出しており、その批判を受けてインド当局や各シンクタンクが交通政策全体を見直す動きを見せている。

エアカー自体のアイデアはパチャウリ博士を納得させるものとなったとしても、低価格競争によってガソリン車の台数が増えたのでは元も子もない。タタ・モーターズはそうした懸念をなくす形で、スムーズにエアカーを発表することができるのだろうか。

■本社と広報本部の分裂 

さて、前回述べたようにMDIはバルセロナを広報本部として、なかなか具体的なことを伝えないできた。しかしタタ・モーターズとの契約をきっかけにMDIのニースの工場から直接、息子のチェリル氏が中心になって英語での発信をするようになった。設立当時にはほとんど英語ができなかったチェリル氏だが、今ではテレビの前で技術的なことを英語で説明できるほどに上達した。

バルセロナの国際広報がなかなか進展しないうちに、チェリル氏はタタ・モーターズと話を進め、提携にこぎつけたようだ。その結果、MDI本社とバルセロナとの関係が冷えることになり、08年2月に両者は袂をわかっている。

しかしバロセロナのセラデス氏側も、スウェーデンとスペインの自動車メーカーとのライセンス合意を取り付けており、今後MDIを中心とした開発と、セラデス氏側の「エアカー・ファクトリー」を中心とした開発の二本立ての競争が始まることになりそうだ。

MDIの側では、タタ・モーターズのほかにアメリカのニューヨーク州に本拠のある小さなベンチャー企業「ゼロ・ポルーション・モーターズ」と提携し、アメリカでの事業展開を計画している。またパリ市で導入するシティーカー制度(市内に入る車はすべてレンタカーにする)の入札に向けて新しい「シティー・キャット」の試作に取り掛かっている。


(続く) 
posted by 菅原 秀 at 11:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 無限の代替エネルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月30日

空気で走る自動車は可能か(上)


石油の埋蔵量がどの程度残っているのかは、はっきりしないものの、20世紀になって人類が石油を動力として使うようになって以来、この新しい動力源は、発電、工業、モータリゼーションの分野で目一杯使われ、世界のGDPを押し上げて続けてきた。

それに加えて、石油をあっというまに消費する最大の分野は戦争である。大量の火器と人員を投入する石油消費型の戦争が、あいかわらず世界各地で続いている。

イラクとアフガニスタンでの対テロ戦争で、こうした石油消費型戦争は終結するのかと思ったが、そうは問屋が卸さないようだ。同規模の戦争がいくつか起きれば、石油資源はあっという間に枯渇するかも知れないという危機に瀕しているのだ。

今の形の産業構造と、軍事力に頼る紛争解決法を続けている限り、この有限な動力源である石油が突然枯渇しかねない。われわれはそうした危ない文明の橋を渡っているのだ。
 
地球温暖化の危機が訴えられているが、地球温暖化という時間軸の長い危機であるのに対して、石油の枯渇問題は、それこそ待ったなしの危機なのである。まごまごしていた私たちはいつの間にか、この危機を回避するという理由で原子力発電を作ることを許してしまった。廃炉のコストと事故が起きたときのリスクを隠したままに「最も安価なエネルギーだ」と主張する彼らの口車に乗せられてしまったのである。

燦々と降りそそぐ太陽と、水と緑にあふれたこの地球には、すでに十分なだけの代替エネルギーの可能性が与えられていた。しかしわれわれは、広大な自然エネルギーに眼をそむけて、危険極まりない原子力発電を受け入れてしまい、挙句の果てにはチェルノブイリに次いで、全世界に放射能を撒き散らす加害国家になってしまったのだ。

ただちに原子力発電に代わる代替エネルギーを開発し、世界に先駆けて国内の原子炉すべてを廃炉にするのが、私たちの日本人の義務であると心しなければならない。

代替エネルギーとしては、太陽光、バイオマス、風力などが注目されているものの、今までのやり方では石油にとって代わるだけの量に達するのはまだまだ先の話になってしまう。

特にランニングコストがあまり良くない太陽光発電だけが脚光を浴び、すぐにでも可能な小水力発電、振動発電、天然ガス、地熱、あるいは忘れ去られた太陽光湯沸し器などが無視されているのも気になるところだ。日本には実に多様な代替エネルギーが存在しているのにもかかわらずだ。

本来なら1974年の第一次石油ショックの時に、省エネのキャンペーンに加えて代替エネルギーの開発に着手しなければならなかったのだ。
 それでは、ここまで切羽詰まった今、抜本的な手立てとして何が考えられるのだろうか。

●ゼロ・エミッション車の可能性

トヨタの「プリウス」、ホンダの「インサイト」をはじめ、燃費を飛躍的に伸ばしたハイブリッド車が注目を集めている。

ヨーロッパでは燃費の良いディーゼル車の開発が進んでおり、厳しい排ガス規制をクリアできる性能を持ち、かつ低燃費の車が全車両の50パーセントにせまる勢いで売れている。

ハイブリッド車の場合は、車の発進や操作性向上を目的とした発電機や電池を搭載しており、EV車(電気自動車)の特性も兼ね備えている。ハイブリッドを開発している乗用車メーカーは、ガソリンが枯渇した場合にそなえてEV車にシフトしやすい状態を想定しているに違いない。

もちろんEV車は、まだ一般人が購入できるような価格にはなっていない。しかし石油が枯渇したあとの動力としての電気は極めて有効である。現在製造されているEV車の場合、燃料費もCO2排出量も、ともにガソリン車の20%程度で済むと試算されており、CO2排出量削減のためにきわめて有効である。

しかしEV車の動力源である電力を生み出す時点ですでにCO2が排出されているという矛盾も考える必要がある。石油の枯渇の可能性や、電力確保の難しさは、常についてまわる問題だ。ではそうした心配のいらないゼロ・エミッション・カーの可能性はあるのだろうか。

そう思っていた矢先2007年5月に、ゼロ・エミッション・カーに関する大きなニュースが世界中のメディアをにぎわせた。残念なことに日経テレコンやヨミダスを調べてみたが、日本の新聞には報道されなかったようだ。  

インドのタタ・モーターズが圧縮空気を動力としたエアカーの開発者との間でライセンス契約を行ったと発表したのである。

タタ・モーターズが契約した相手先は、フランスのニース郊外のモーターズ・ディベロプメント・インターナショナル(MDI)という小さな自動車開発会社である。

タタ・モーターズが発表したプレスリリースは、MDIについて次のように紹介している。

「MDIグループは、ギー・ネグレ氏が率いる会社であり、圧縮空気のみを燃料とするエンジンのパイオニアとしての夢を追求するために1990年代に設立された。圧縮空気エンジンは、おそらく今まで作られたエンジンの中では最も環境に優しい究極的なものと思われる。同社が開発したエンジンは効率が良く、燃費に優れ、小型であり、さらに発電機などの他の分野にも応用できるものである。(中略)MDIは南フランスに位置するニース近郊のカロスを本拠とする家族経営の会社である。ギー・ネグレ氏とチェリル・ネグレ氏が、技術者のチームと共に、経済的なエネルギーと、環境保護の厳しい要請を満たし、かつ市場で勝てる価格の新しいエンジンを開発し続けてきた」
(タタ・モーターズ・プレスリリースより 2007年2月5日)

● 町工場の海外広報戦略

ギー・ネグレ氏は元航空機製造技術者であり、のちに自動車エンジンの開発を手がけるようになった。一時はF1のエンジンの設計に携わったこともあるらしい。ニューヨーク・タイムズのリチャード・チャン記者が調べたところでは、ネグレ氏はAGSのF1に自分自身の12気筒エンジンを持ち込んでいるとのことである。F1のグランプリには採用されなかったものの、1990年のルマンでのレースのノルマM6に採用されているとのことである。(ニューヨーク・タイムズ08年2月27日)

 
F1レースのマシンに搭載するエンジンを自力で作るほどの技術者であるネグレ氏は、1993年に息子のチェリル氏と共にニース郊外に小さな工場を作り、空気だけを動力とする自動車の開発を開始した。

圧縮空気だけで動くエンジンが完成したのは2001年。さらに翌年にはエアカーの原型を完成させている。同時にネグレ氏は、実用化を目指すための投資戦略を行う代理人として、スペインのミゲル・セラデス氏と契約をし、国際広報を彼に任せて、自分たちは開発に専念することにした。ネグレ氏はフランス語しか出来ないので、貿易に詳しくフランス語とスペイン語が堪能なセラデス氏に国際広報とマーケティングを任せたのである。

MDIはスペイン語圏の国際貿易に詳しいセラデス氏を代理人にすることで、先行投資をつのり実用化を早めようとしたのだろうが、この作戦は結果的には遠回りになってしまったようだ。

海外からの問い合わせをすべてバルセロナにあるセラデス氏の事務所で扱うことにしたのだが、当然、エアカーの技術的な側面についての問い合わせが圧倒的に多い。セラデス氏側の対応は「技術的に完全であるが、その仕組みについては投資家にしかご説明できない」といったものが多く、エアカーに興味を示す人々からは逆に「ガセネタではないのか」という不信感を招くようになった。

私も何度かセラデス氏に問い合わせのメールを送ったのだが、ほとんど返事がなく、電話をしてもスペイン語での応対しかしてくれないので、MDIのエアカーの実情をなかなか知ることが出来なかった。やっと英文での返事が来たかと思うと、MDIへの株の投資を促す文書だけで、エアカーがいつどういった形でデビューするのかについては触れられていなかった。

それでも断片的な情報から、このエアカーがどうも本物らしいことがわかってきた。

最初の頃のマスコミからの質問は、圧縮空気ボンベの耐用性に関するものが多かった。エアカーには300気圧ほどの圧縮空気を詰め込んだボンベを搭載するというので「ボンベが走行中に爆発することはないのか」といった疑問が生じるのは当然であろう。

MDIでは最初の試作時点では、特殊な合金を使ったボンベを採用していたようである。空気を充填したボンベに至近距離からピストルの弾丸を撃ち込むという実験を何度も繰り返し、頑丈であることを証明する努力をしていた。

それを知った私は「事故時の衝撃はかなり大きいものと予想されるので、ピストルの弾丸の照射実験では信頼性が低いのではないか」という質問をしている。それに対して「ご指摘ごもっともなので、将来は大砲の試射によるテストなども考慮したい」という返事が届いている。

しかしその心配はすぐになくなった。合金が爆破した場合、断片が弾丸のように飛散することがわかり、炭素繊維で作ったエアバス社製のボンベを採用することになったからである。

(続く) 
posted by 菅原 秀 at 01:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 無限の代替エネルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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