2005年10月02日

国際盗聴網があなたをねらっている(3)

◆日本も傍受されている

さて、日本はエシェロンの傍受対象にされているのだろうか。

ハーガー氏の指摘によれば、特に外交文書がかなり傍受されているという。エシェロンの各国の傍受基地が日本の情報の何を盗み取るかということについては、地域ごとに分担が決まっている。

日本政府が太平洋地域で展開している貿易、海外援助、漁業などの政策や、国際会議などの情報を扱うのは、ニュージーランドの担当である。

日本大使館は通信内容の機密の度合いに応じて、暗号を区別し、主としてテレックスでのやり取りをしているという。難易度の低い暗号が使われた場合は、ニュージーランドの傍受基地の分析官は、難なくその内容を読み取ることができるという。

ニュージーランド情報通信保安局(GCSB)が傍受する日本大使館の電文は、ビザの発給や文化行事、あるいは定期外交報告などであり、こうした文書は機密扱いではないので、傍受が簡単なそうである。しかし、一見なんでもないような内容から日本政府の外交方針を読み取るのが、分析官という高度な訓練を受けたスパイの仕事である。

また太平洋地域の在外日本公館は、外務省と衛星通信で連絡しているので、ニュージーランドが日本の太平洋地域の情報を盗むことは困難だった。

◆甘く見られている日本発の通信

ところが1989年にニュージーランドのワイホバイという場所に通信衛星専門の傍受基地を設置し、日本大使館の情報を読み取れるようになった。これらの電文を分析した日本発の情報にはJADという符牒がつけられ、エシェロン各国の諜報機関に供給する作業が開始された。

ニュージーランド情報通信保安局(GCSB)では分析官たちが通信内容ごとにデータを仕分けし、翻訳する。これをエシェロンの共通書式に従って「最高機密」「機密」などに分類する。日本語の情報を傍受するためにはコンピューターのシステムに日本語を組み込まなければならない。この作業はアメリカのNSAが行い、さらに傍受用の特殊なプログラムを開発して、ニュージーランドに持ち込んでいる。

JAD情報は一般的にはたいくつ極まらないものばかりで、ほとんど役に立たないそうだが、日本の役人はときどき油断して「お宝」情報を漏らしてしまうことがある。

語り草となっている話として80年代初めの出来事がある。日本のある外交官が貿易産品の価格交渉での買い入れ可能上限額を、日常連絡用の外交文書で送ってしまったそうである。その結果、ニュージーランド側の食肉団体が大儲けをすることができ、GCSBの存在価値がおおいに認められることになったそうだ。

日本語を傍受する部署はK部と呼ばれる部局にある。K部にはKP課とKE課がある。

Kの意味は単なる部署記号らしいが、Pは太平洋州の意味で、KP課は太平洋諸島国家の政府活動やフランスの核実験の監視を行っている。Eは経済の意味で、KE課は南太平洋の日本の外交通信、ロシアと日本の漁業、さらに南極圏の各国の経済活動を監視している。

またニュージーランドで傍受できない情報に関しては、アメリカが三沢基地に保有している通信傍受施設からも供給され、日本語に強いスタッフが常駐しているニュージーランドのGCSBで分析作業が行われているようである。

したがって、日本が見張られているのは、むしろ外交活動よりも経済活動であると考えたほうがいいだろう。

その意味で、エシェロンは外務省の文書や電話だけでなく、数多くの日本企業の動向を探っていると思われる。つまり、私たちが日常的に利用する電子メールや国際電話も、傍受されていると考えて間違いがないであろう。


◆ 国際盗聴網にどう対応すればいいか

もちろんエシュロンのような不法な活動は、法的にはどの国の法律にも違反する活動であろう。国を越えた諜報活動は、アメリカや英国の国内法にも違反していると思われる。

ところが肝心のアメリカですら、NSAは下院情報委員会からの資料提出要求を、諜報の秘密を理由として拒否する始末で、アメリカ国内での告発活動もままならないようだ。こうした活動に目をつぶる歴代の政権に庇護されながら、NSAはその活動内容を一向に公表しようとはしない。

アメリカには諜報機関が13もあり、お互いの組織が競争活動をすると同時に、スパイ機関同士の組織温存をはかるために、お互いに助け合うということも行っている。
代表的な諜報機関としては、NSAを筆頭に、CIA、DIAなどが有名だ。13の諜報機関をあわせた職員数は20万人程度と推定され、年間300億j程度の予算が全体に配分されていると思われる。

CIAなどの古くからの諜報機関は秘密活動を伴なうスパイ活動を行っていることは広く知られているが、NSAの職員は人前にその姿を表わさない。あくまでも、コンピューターを使った盗聴活動と、暗号解読活動を専門としているので、なかなかその実態が表に出ない。

さて、日本に住んでいる私たちは、この不法な国際盗聴活動にどう対応したらいいのであろうか。

日本国憲法21条では「通信の秘密は、これを侵してはならない」と定めており、それを受けた電気通信事業法四条では「電気通信事業者の取り扱い中にかかる通信の秘密は、侵してはならない」とされ、違反者には2年以下の懲役又は50万円以下の罰金が課されることになっている。

三沢基地の米軍傍受施設が行っている盗聴活動から、具体的な盗聴の事実を証拠としてあげるのはなかなか難しい仕事だと思われるが、アメリカの市民団体の協力があれば、退役軍人などから具体的なデータがもたらされる可能性がないわけでもない。

また、アメリカの市民団体は、NSAの分析活動に混乱をもたらすために、NSAが使うキーワードを大量に打ち込んだ文書を電子メールで流し、NSAのディクショナリーに過剰負担を起させようと呼びかけた。呼びかけたのはアメリカの弁護士リンダ・トンプソン氏である。

トンプソン氏は、効果的なキーワードとして、次のようなものをあげている。一部を紹介しよう。

「米連邦捜査局(FBI)、米中央情報局(CIA)、米国家安全保障局(NSA)、米国税庁、アメリカ教育連盟、米国防総省、オクラホマシティー、 拳銃、テロリズム、爆弾、薬物、特殊部隊、憲法、権利章典、ホワイトウォーター、イランコントラ、モサド、米航空宇宙局、英国諜報部、ロンドン警視庁、マルコムX、革命、ヒラリー、ビル・クリントン、ゴア、ジョージ・ブッシュ」

トンプソン氏の呼びかけが功を奏したのか、ZDネット日本版が2000年1月30日に興味深いニュースを配信している。

「米国家安全保障局のコンピューターに障害――原因は大量傍受による過負荷?」と題した記事によれば、NSAのコンピューターシステムが「深刻な」障害に見舞われ、1月24日から3日間にわたって諜報データの処理に支障をきたした。

 NSAはメリーランド州フォートミードにある本部のコンピューター復旧のため、数千人時にも及ぶ技術者の手と、150万jの費用を費やしたという。NSAの記者発表によれば、「この障害によって、収集した情報そのものが影響を受けることはなかったが、情報の処理には支障をきたした。情報処理のバックログはほとんど完全であり、NSAでは重要な情報が失われたことはないと確信している」ということだ。

またこのNSAのコンピューター障害を最初に報道したABCニュースによれば、NSAディレクターのマイケル・ヘイドン米空軍中将は「今回の問題はYK2関連のものではなく、大量の情報を傍受したことによるコンピューターシステムの過負荷が原因だと」述べている。 (註:YK2=2000年に起きるとされたコンピューター誤作動の問題のこと、実質的には杞憂に終わった)

こうしてNSAに対する批判は、海外だけでなくアメリカ国内でも高まっており、NSAは少しずつ情報公開をせざるを得ない立場に追い込まれている。

その第一歩としてNSAは10年ほど前に「国立暗号博物館」を本部の敷地のはずれに設けている。また最近では「オープンドアー・プロジェクト」なるものを発足させ、ホームページを開設し、第一次世界大戦から第二次世界大戦にいたる期間の諜報文書を公開している。

しかしNSA本部自体は誰も入れないドアにさえぎられている。国際盗聴機関がはるか上空のかなたから、コンピューター技術を利用して私たちを監視する時代は、いつまで続くのだろうか。              (了)

★初出「月刊公評03年12月号」 加筆05年10月


posted by 菅原 秀 at 20:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 民主主義とは何だろう | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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