2005年09月19日

国際盗聴網があなたをねらっている(2)

◆盗聴はキーワードで分類して取り込む

エシェロン国際盗聴網が行っているのは、海底ケーブルと通信衛星から漏れる通信を特殊機器で収集し、コンピューターに蓄積し、必要な情報を翻訳・分析するのが主な作業である。

電子メールのような文書情報だけでなく、電話による音声情報もデジタル化して収集している。電話番号や、話している人物の名前や声紋を探ることで、特定の情報をアクセスすることができるプログラムが利用されているようだ。

こうした文書と音声情報が、UKUSA同盟各国の秘密基地にあるディクショナリーと呼ばれるコンピューターに分類して蓄積される。

蓄積する場合には、私たちがパソコンで行っている検索方法と同じように、いくつかのキーワードごとに分類する。例えば日本の農業に関することなら「日本」「農業」「輸出作物」など、諜報活動に必要と思われるキーワードにもとづいて大量な文書がため込まれる。

NSAの指示にもとづいて、各国の盗聴機関の分析官と呼ばれる職員がこれらの文書を解読、翻訳し、その結果がワシントンのNSAに集約されるシステムとなっているのである。

ニュージーランドの基地は、地勢的位置を利用して、太平洋諸島の国々や日本、あるいはロシアの船舶などの通信を主として手がけている。日本語の文書を英語に翻訳してワシントンに届けるのもニュージーランドの担当である。

ニュージーランドという独立国家が、なぜアメリカのスパイ作業に協力するのかという大きな疑問が生じるが、この秘密ネットワークはニュージーランドの為政者が知らないうちに、米国やオーストラリアから調達された機器を元にして、あたかもニュージーランド軍のための諜報機関を装って作られていたのである。

つまり、米、英、カナダ、オーストラリア、それにニュージーランドの諜報官僚たちが、国境を越えて、政治家たちに知らせることなくちゃっかりと築き上げたのが、このエシェロンという諜報網なのだ。


◆米国NSAがエシェロンの指令基地

ハーガー氏(前回の記事参照)の著書に敏感に反応したのが欧州の国々であった。EUは調査委員会を発足させ、二〇〇〇年七月、エシェロン国際盗聴網の調査を開始し、2001年7月に公式の報告書を発表した。

この報告書によって、エシェロンという符牒で呼ばれる国際盗聴網が存在するということがはっきりした。

エシェロンに所属する機関は次のとおりである。米国安全保障局(NSA)、英国政府通信本部(GCH)、カナダ通信保安庁(CSE)、オーストラリア防衛通信本部(DSD)、ニュージーランド情報通信保安局(GCSB)である。

エシェロンの各国機関にはディクショナリーと呼ばれる大型コンピューターが、窓のない完全空調の建物に設置されており、盗聴対象項目のあらゆるキーワード、個人名、電話番号などを蓄積している。電子メールや短波通信を大量に傍受して溜め込み、各国機関が協力してそれらの文書や通信を翻訳する。

また、暗号の解読技術も極めて高度に発達しており、各国が大使館とやりとりする暗号などのかなりの部分を解読している模様だ。


◆人権団体をも監視か?

EUの調査委員会は、特にエシェロンが各国の経済情報や人権団体の活動を傍受していることに注目している。つまり、エシェロンは軍事関係の諜報だけでなく、経済動向も調査して米英に有利な取引を行ったり、各国の人権団体の動きも監視している可能性が極めて高いのである。

NSAが他国の機関に命令している例のひとつとしてハーガー氏は、03年3月に興味深い文書を入手し、日本の読者のためにその秘密文書を公開している。この文書は英国のオブザーバー誌がすっぱ抜いたものだ。

NSAのフランク・コザという名前の職員の署名による、おそらく英国の諜報部に向けて出したと思われる「最高機密」と指定された文書である。

この文書には、次のような内容が記されている。
「NSAは米国と英国を除く国連安全保障理事会のメンバーが、イラク問題に対してどう考えているのが、どういう態度で決議にのぞむのか、どういう国々と連携しているのかなどを探る作戦を開始した。これはアメリカの政策を有利にするための作戦であり、同時に国際社会の関心をパキスタンに向かせる作戦とも連動している。特に、国連安全保障理事会メンバーであるアンゴラ、カメルーン、チリ、ブルガリア、ギニアを標的として作戦を実行すること。国務長官が国連安全保障理事会に証拠提出をするので、来週半ばあたりに多くの文書が飛び交うだろう。これらの国を対象とした傍受・分析作業に集中して欲しい」
というものである。

つまり、アメリカのイラク侵攻を正当化するために、各国の諜報機関はアメリカ政府に協力せよというのだ。

この文書からわかるのは、私たちが知らないうちに、アメリカ政府はアングロ・サクソンだけの連合国を秘密裏に形成し、その盟主として諜報機関を通じて、国際世論操作を行っているようだ。

さて、EUはエシェロンにどう対応したのであろうか。
まずEUは調査委員会を設置する前に、ダンカン・キャンベル氏という英国のテレビ・ジャーナリストに調査を依頼した。

キャンベル氏は2年かけてハーガー氏の書物の裏付け調査をし、エシェロンがハーガー氏が指摘しているとおりに存在していることと、アメリカの企業がエシュロンを利用してEU企業を国際入札で追い落としたことが二回あるとの調査結果を発表した。

これを受けたEUは三十二人のメンバーによる調査委員会を発足させ、2001年5月にはワシントンを訪れ、NSA当局との面談を要求している。しかしNSAはこの面談の要求を拒否している。にもかかわらずEUの調査委員会は詳細にわたる報告書を完成させ、UKUSA五カ国による国際盗聴網を阻止する行動をとらなければならないという提言をまとめている。

特に英国に対するEU諸国の怒りは相当なもので、フランスがあくまでもアメリカのイラク侵攻に反対するのには、こうしたバックグラウンドもあるということも、考えておく必要があるであろう。

しかしながらエシェロンに対するEUの怒りは、むしろ盗聴によってEU企業の国際競争を阻害しているという点からきているようで、明確な国際法違反である盗聴活動に法的対抗措置を採るという動きには、今のところ発展していない。むしろ、フランスがこのシステムに逆に興味を持ち、自前の国際盗聴システムを構築しようとする動きさえ見せている。

エシェロンはどんな国や団体を対象に、何の目的で傍受作業をしているのだろうか。エシェロン・ウォッチャーによれば、有名な例としては、ジョン・レノン、マザー・テレサ、ダイアナ元皇太子妃などの名前があがっているが、真偽のほどは定かではない。しかし、NSAの元職員などが断片的に伝えているこうした有名人の名前から、米英に対する反体制運動に結びつきそうな人物の通信が、積極的に傍受されていることは間違いがないようだ。(つづく)

★初出「月刊公評03年12月号」 加筆05年9月

posted by 菅原 秀 at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 民主主義とは何だろう | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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