2007年07月15日

コッチェビの涙(2)人工の自由空間「金剛山」

南北統一を進めるための拠点として開発された金剛山(クンガムサン)はどんな場所なのだろうか。確かに風光明媚な場所である。しかし、自然の中に作られた一連の施設は、まさに人工の自由を無理無理生み出しているのではないかという印象だった。この地を訪れた日本人は合計で数百人しかいないそうである。そのため、よく政治話題に出てくるこの場所が、どんなところであるか、ほとんど知られていないのである。今回は、この不思議な場所を紹介しよう。

▼非武装地帯の北側は賽の河原だ

バスはいよいよDMZ(非武装地帯)を越えて、北朝鮮領に入る。車窓からの撮影は一切禁止されている。しかし、朝鮮戦争以降人が踏み込んでいない南側2キロ、北側2キロのDMZをしっかりとその目に刻み込まなければならない。記者たちはノートを取り出し、その風景を描写し続けた。

38度線のDMZ(非武装地帯)は、ずっと人が入っていないので、小動物たちの天国なそうだ。車窓から小動物は見えないが、南側DMZには潅木に覆われた自然が広がっている>

迷彩服の韓国兵がひとりで守っている南側DMZの歩哨詰所を越えると、いよいよ北朝鮮だ。一行の緊張は高まり、全員が窓から北側DMZの光景を食い入るように眺める。

私たちの目に映ったのは、驚くべき極端な情景の変化だ。南側が潅木の茂る平原だったのに対して、北側は道の両側に数十メートルの高さの岩山が迫り、草木が極端に少ない賽の河原のような景色が急激に広がる。

CIQ(入国・検疫事務所)は、2003年に金剛山入りの陸路が合意されてから設置されたわけだが、100人を越す外国人が始めて陸路を通過するということで、かなり緊張していた。

しかし、さすが観光のために開発されたルート。CIQのスピーカーが8ビートに乗った「パンガップスムニダ(ようこそいらっしゃい)」の軽快な歌を流し続けている。そのロック歌が流れる中、直立不動で歩哨に立つ兵士たちが、無表情のまま、勝手に動き回る私たちを遠くから監視している。


▼自然の中にぽっかり生れた異空間

やがてバスは、金剛山地域に分け入り、温井閣(オンジョンガク)という観光センターに到着する。ここには温泉、劇場、ホテル、カラオケ、体育施設など、観光客が金剛山のトレッキングを終えた後にくつろぐための施設が設置されている。離散家族の面会所も急ピッチで建設されている。夏までには竣工するという。金剛山という政治的な異空間は、まさに離散家族が出会う場所として準備されたかのようだ。

いったん金剛山の観光施設に到着すれば、緊張感はまったくない。唯一感じるのは、観光施設の合間から遠めに観察できる一般住民の村々にカメラを向けたりすると、すかさず私服の北側監視員が飛んできて、静止するときぐらいのものである。

一連の施設が集中している温井閣(オンジョンガク)という地域には、スパや大劇場があるが、同時に離散家族のための滞在施設も建設されていた。

現代俄山の張桓彬(チャンファンビン)国際担当副社長が、この金剛山についてブリーフィングを行なった。

「2000年から開始された金剛山地ツアーは05年に年間27万人に達したのですが、06年の核騒ぎによって20万人に落ち込みました。しかし、今年は六カ国協議の好結果を受けて順調に回復しており、40万人を見込んでいます」


▼北の従業員の給料は月60ドル以下

温井閣(オンジョンガク)の施設には1500人の従業員が働いているが、うち800人が北の住民で月に57・5ドルの給料。残り700人は中国籍朝鮮人で、月300ドルの給料とのことだ。

北の従業員への賃金に関して記者たちと現代俄山の社員との間で、かなりのやり取りがあったが、いまだに腑に落ちない。

「共産国家ですから住居、食事代はかかりません。また給与基準は平壌が決めます。私たちは毎年、賃金を上げるように交渉しているのですが、なかなかウンといいません」。果たしてそうだろうか。それにしては中国から出稼ぎに来た朝鮮人への給与も安すぎるのではないか。

北の従業員は胸に金正日バッジをつけているので、すぐにわかる。カメラを向けると逃げていってしまうので、なかなか撮れない。施設の向こうに遠目に見える村々の入り口を撮ろうとするとどこからか監視人が飛んできて、静止する。

しかし138人もの一癖も二癖もあるジャーナリストの集団だ。表面上は北朝鮮側の言うことを聞くふりをするが、監視人の目の届かないところで、カバンの中に隠して持ちこんだ小型望遠レンズをマウントしたカメラで遠くの村人の情景をこっそり撮影している者もいる。

遠目から見る近隣の村々は、実に質素だ。みな土壁の平屋に住んでおり、黒か褐色の作業衣を着て、とぼとぼと歩いている。自転車の数はきわめて少ないようだが、たまに通りかかると大量の荷物を運んでいる。大きな竹カゴを左右にぶら下げていたり、穀物らしきものが入っている布袋を積んでいたりする。ぼろぼろのピックアップトラックを見かけたが、乗用車やバンのようなものは村人とは無縁なようだ。

一行は、金剛山ホテルに宿泊することになった。10階建てのこざっぱりしたビジネスホテルという感じだ。床はオンドルになっており、トイレとシャワーがついている。早速トイレを使ったが水が出て来ない。フロントに「トイレの水が出ない」と言ったが英語も日本語も通じない。

韓国人記者が、どの部屋も水が出ないといったところ、ホテル中の従業員が上を下への大騒ぎで、メンテナンス要員を呼びに行った。

ロビーにたくさん花が飾られていたが、それらの花に近づいた日本人女性記者が「全部造花だわ」と目を丸くしている。「人工の自由空間に人工の花を飾っているわけね」彼女は、するどく、この金剛山の本質を指摘した。

(つづく)               (c)2007 菅原 秀 


posted by 菅原 秀 at 02:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 涙は止まるか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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