2012年01月21日

アフリカに出現した「チーター世代」

国連のミレニアム開発目標では、2015年までに一日1ドル以下で暮らす人を半減させることになっているが、そのゴールまでわずかに3年。多くの識者がその達成を危ぶんでいるが、ここにいたってBOPビジネスが世界の貧困問題を解決するのではないかという希望が芽生え始めた。とくにアフリカ諸国では、自分たちの手で地元にビジネスを起業する「怒れる若者たち」が次々に出現している。BOPビジネスと「チーター世代」が私たちに突きつける課題について考えてみよう。


■ 希望を運ぶ「チーター世代」

「チーター世代」と呼ばれる若者が出現し、貧困にあえぐアフリカ各地にさわやかな風を吹き込んでいるのをご存知だろうか。

「チーター世代」という言葉が始めてマスコミに登場したのは、2010年9月、米国のCNNがアフリカに関するシリーズを報道したときだった。

このシリーズは、アフリカ17カ国が独立50周年を迎えたことをきっかけとしたものだが、「チーター世代」という言葉によって番組全体に、今までのアフリカ番組になかった新しいいろどりが加えられることになったようだ。

この言葉を作ったのはガーナ出身の経済学者で、現在はワシントンDCのアメリカン大学で教鞭をとっているジョージ・アイッティ教授だ。

番組の中でアイッティ教授は、次のように語った。

「現在のアフリカは、広大な鉱物資源に恵まれていながら、未だに貧困の泥沼にはまり込んでいる大陸である。アフリカ大陸は、リーダーシップの圧倒的な不在、あるいはリーダーたちの破局的な失敗とも言える状態によって生み出された苦しみにあえいでいる。1960年以来アフリカ諸国には210人の首長が生まれたが、その中で、これぞと思う人を10人上げることが出来るだろうか」

「マンデラ、エンクルマ、ニエレレなどの名前を思い浮かべることができても、すぐに続かなくなる。しかし私が『チーター世代』と呼んでいる新しいグループには希望が持てるのだ。チーター世代というのは、アフリカに関する問題を、まったく異なって視点で捉える、怒れる若い世代の新しいアフリカの大卒者と専門家グループのことである」

 
■ 援助づけを当然としてきた「ヒッポ世代」

チーター世代に対して、アフリカを援助漬けにしたまま、未だに「アフリカの貧困は先進国による植民地政策に責任がある」と言い続け、自らが行っている汚職だらけの政治のあり方を改革しようとしないリーダーたちを、アイッティ氏は「ヒッポ世代」(カバの世代)とこき下ろす。

この対比の仕方が愉快だったことと、「チーター世代」というスピード感のある言葉を産み出すことによって、視聴者には「今、アフリカに必要なのは、同情による援助ではなく、自らの力で産業を産み出す能力だ」ということが強く印象付けられた。

さらに「ヒッポ世代」という言葉は、アフリカがあらゆる分野で遅れを取ってきたその原因を端的に物語っている。

「ヒッポ世代」が培ってきた知性は、植民地時代を引きずるつぎはぎだらけの教育によって、ゆがんだままに凝り因まっている。彼らは白人が黒人に対して犯した不正に関しては、鋭い観察眼を持っている。しかし、自分たち自身が黒人の仲間に対して行った不正については、絶望的なほど盲目である。

さらに、ヒッポ世代は60年代のメンタリティーを持っており、使い古された「植民地主義と帝国主義によるアフリカ支配」というずんぐりと重苦しい考え方を持つだけでなく、あいかわらず国家の有効性という幻想に固執し続けている。そして、物事を近視眼的にとらえている。

事実を直視することをせず、空調の利いた政府のオフィスにしっかりと座り、国がアフリカの問題のすべてを解決してくれることを信じて安堵している。国にとって必要なものは、さらなる権力と外国からの援助であると思い込んでいる。彼らは自分たちに富をもたらす領域を擦猛になって守ろうとする。

「ヒッポ世代」は国全体が崩壊してもあまり気に留めない。自分のいる池が安全ならそれで満足なのである。そして、カバは他のどの動物よりも、多くの人間を殺すのである。

■ NHKを通じて日本にも伝わった「チーター世代」の存在

CNNの番組に刺激されたわがNHKも、2011年5月のクローズアップ現代で「アフリカを変えるチーター世代」という番組を放映した。

NHKの番組では、欧米に留学して自国に戻ったアフリカの若者が、伝統的な産業を再生させようとする努力や、小額の資金でも起業ができるさまざまなチャンスにチャレンジしているエピソードがいくつか紹介されていた。

その中でもっとも印象的だったのは、モザンビークでメディア事業を展開しているエリック・チャラスさん(35)だった。モザンビークはポルトガル語の国だが、彼は流暢な英語で自分の仕事について熱心に語っていた。

番組でのチャラスさんの熱のこもった話に興味を持った私は、その後、この人物について調べてみた。チャラスさんは南アフリカに留学し、ケープタウン大学工学部で学んだ。卒業の後は南アフリカの企業および公共機関でエンジニアの仕事をしていたが、モザンビークに戻って自分の力でビジネスを起こすことにした。留学先の南アフリカは英語圈なので、チャラスさんの英語が流暢なのも当然だった。

最初はテレビ事業を開始しようと思ったそうだが、あまりにも許認可の規制が厳しすぎるので、活字メディアの可能性について検討をした。モザンビークの国民の多くは、新聞や本とは無縁の生活をしている。図書館は皆無で、首都マプトでいくつか発行されている新聞の部数も千部から五千部程度しか印刷されておらず、ごく一部の富裕層が講読しているに過ぎない。

モザンビークの人々は、外界で何が起きているかを知ることなく、貧困にあえいでいる。「人々に外部の情報をもたらすためにはどうしたらよいか」。チーター世代のチャラスさんが出した結論は、テレビと同じようなお金を取らないシステムが必要だというものだった。つまり「無料の新聞の発行」にチャレンジしようと考えたのである。

「どうすれば無料の新聞を発行できるのだろうか?」

■ 無意識に作り出されたBOPビジネス

すでに先進諸国には、無料新聞のモデルがたくさん生まれている。チャラスさんは広告によって無料化を図るという方法でなく、最初から無料の新聞を出し、無料による広がりの中から、参加者がビジネスチャンスを見つけ出せるようにしょうと考えたのである。

先進国を席巻している「フリー媒体」の考えは、モザンピークのような途上国でも通用することがわかった。紙媒体を欲しがっていた携帯電話会社が、資金を出してくれた。さらに郵便や雑貨を扱うモザンビーク特有の地域ビジネスネットワークが、自分たちのビジネス拡大に役立つことに気づき、協力してくれることになった。これはキオスクの一種のようなものらしい。

こうして無料の新聞「ヴェルダーダ」(真実)を週に一回発行する体制が整った。無料なので、紙資源を欲しがっている人々が、どんどん持ち去っていってしまうのではないかと心配したが杞憂だった。「他の人も読みたいだろうから」といって、一部か二部しか持っていかないのだ。

新聞を配送するための黄色い三輪車を「ヴェルダーダ」のシンボルとして調進した。新聞配送をしない日は、タクシーとして活用することにして、配進員たちの生活を支える工夫をした。

発行部数は40万部。あっという間にモザンビーク唯一の活字メディアの地位を確保することになり、創業3年日で経営は安定した。

テレビにも新聞にも触れることがなかった人々の生活は、首都マプトを中心に変化していることをチャラスさんは実感している。

今までの選挙では、古くからの政治家に自動的に投票するだけだったが、「ヴェルダーダ」の読者たちは、自分の意見をはっきりと述べて立候補した人々を支持するという形で、政治的に成熟していった。

海外に対するものの見方も変化していることがわかった。ある日、チャラスさんの家に通っている家政婦が、途中で入手した「ヴェルダーダ」を手に持ったまま、興奮した面持ちで出勤してきた。政治的なことや国際情勢には一切の興味を示さない彼女だったが、チャラスさんの顔を見るなり、泣きそうな顔になりながら彼女は語った。

「日本の人たちが可愛そうで、いても立ってもいられません」

そこに出ていたのは東日本大震災の記事と写真だった。

エリック・チャラスさんが立ち上げた無料新聞は、今まで情報から遮断されていたモザンビークの国民も、世界を知ることによって、自分たちが何をすべきかを知る力を発揮できることを明確に示している。

アイッティ教授が語る「チーター世代」は、こうしてアフリカ各地で、今までの企業が思いもつかなかった形でのビジネスを立ち上げている。

広大な自然と資源に恵まれたアフリカ諸国に「チーター世代」が生み出すビジネスは、政府や国際機関の思惑とは無関係に、発展からのドロップアウトを強いられてきた人々のネットワークを作り出している。

アフリカ諸国に貧困を産み出してきたのは、アフリカの多様性に気づかずに、先進国の制度を移入すれば人々が幸せになるという固定観念であったことが、誰の目にも明らかになる日は、思いのほかすぐにやってきそうだ。

初出 ウィナーズ・アンド・カンパニー(梶j「まめ情報」2012.1.3


posted by 菅原 秀 at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会起業とBOP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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