2011年04月30日

空気で走る自動車は可能か(上)


石油の埋蔵量がどの程度残っているのかは、はっきりしないものの、20世紀になって人類が石油を動力として使うようになって以来、この新しい動力源は、発電、工業、モータリゼーションの分野で目一杯使われ、世界のGDPを押し上げて続けてきた。

それに加えて、石油をあっというまに消費する最大の分野は戦争である。大量の火器と人員を投入する石油消費型の戦争が、あいかわらず世界各地で続いている。

イラクとアフガニスタンでの対テロ戦争で、こうした石油消費型戦争は終結するのかと思ったが、そうは問屋が卸さないようだ。同規模の戦争がいくつか起きれば、石油資源はあっという間に枯渇するかも知れないという危機に瀕しているのだ。

今の形の産業構造と、軍事力に頼る紛争解決法を続けている限り、この有限な動力源である石油が突然枯渇しかねない。われわれはそうした危ない文明の橋を渡っているのだ。
 
地球温暖化の危機が訴えられているが、地球温暖化という時間軸の長い危機であるのに対して、石油の枯渇問題は、それこそ待ったなしの危機なのである。まごまごしていた私たちはいつの間にか、この危機を回避するという理由で原子力発電を作ることを許してしまった。廃炉のコストと事故が起きたときのリスクを隠したままに「最も安価なエネルギーだ」と主張する彼らの口車に乗せられてしまったのである。

燦々と降りそそぐ太陽と、水と緑にあふれたこの地球には、すでに十分なだけの代替エネルギーの可能性が与えられていた。しかしわれわれは、広大な自然エネルギーに眼をそむけて、危険極まりない原子力発電を受け入れてしまい、挙句の果てにはチェルノブイリに次いで、全世界に放射能を撒き散らす加害国家になってしまったのだ。

ただちに原子力発電に代わる代替エネルギーを開発し、世界に先駆けて国内の原子炉すべてを廃炉にするのが、私たちの日本人の義務であると心しなければならない。

代替エネルギーとしては、太陽光、バイオマス、風力などが注目されているものの、今までのやり方では石油にとって代わるだけの量に達するのはまだまだ先の話になってしまう。

特にランニングコストがあまり良くない太陽光発電だけが脚光を浴び、すぐにでも可能な小水力発電、振動発電、天然ガス、地熱、あるいは忘れ去られた太陽光湯沸し器などが無視されているのも気になるところだ。日本には実に多様な代替エネルギーが存在しているのにもかかわらずだ。

本来なら1974年の第一次石油ショックの時に、省エネのキャンペーンに加えて代替エネルギーの開発に着手しなければならなかったのだ。
 それでは、ここまで切羽詰まった今、抜本的な手立てとして何が考えられるのだろうか。

●ゼロ・エミッション車の可能性

トヨタの「プリウス」、ホンダの「インサイト」をはじめ、燃費を飛躍的に伸ばしたハイブリッド車が注目を集めている。

ヨーロッパでは燃費の良いディーゼル車の開発が進んでおり、厳しい排ガス規制をクリアできる性能を持ち、かつ低燃費の車が全車両の50パーセントにせまる勢いで売れている。

ハイブリッド車の場合は、車の発進や操作性向上を目的とした発電機や電池を搭載しており、EV車(電気自動車)の特性も兼ね備えている。ハイブリッドを開発している乗用車メーカーは、ガソリンが枯渇した場合にそなえてEV車にシフトしやすい状態を想定しているに違いない。

もちろんEV車は、まだ一般人が購入できるような価格にはなっていない。しかし石油が枯渇したあとの動力としての電気は極めて有効である。現在製造されているEV車の場合、燃料費もCO2排出量も、ともにガソリン車の20%程度で済むと試算されており、CO2排出量削減のためにきわめて有効である。

しかしEV車の動力源である電力を生み出す時点ですでにCO2が排出されているという矛盾も考える必要がある。石油の枯渇の可能性や、電力確保の難しさは、常についてまわる問題だ。ではそうした心配のいらないゼロ・エミッション・カーの可能性はあるのだろうか。

そう思っていた矢先2007年5月に、ゼロ・エミッション・カーに関する大きなニュースが世界中のメディアをにぎわせた。残念なことに日経テレコンやヨミダスを調べてみたが、日本の新聞には報道されなかったようだ。  

インドのタタ・モーターズが圧縮空気を動力としたエアカーの開発者との間でライセンス契約を行ったと発表したのである。

タタ・モーターズが契約した相手先は、フランスのニース郊外のモーターズ・ディベロプメント・インターナショナル(MDI)という小さな自動車開発会社である。

タタ・モーターズが発表したプレスリリースは、MDIについて次のように紹介している。

「MDIグループは、ギー・ネグレ氏が率いる会社であり、圧縮空気のみを燃料とするエンジンのパイオニアとしての夢を追求するために1990年代に設立された。圧縮空気エンジンは、おそらく今まで作られたエンジンの中では最も環境に優しい究極的なものと思われる。同社が開発したエンジンは効率が良く、燃費に優れ、小型であり、さらに発電機などの他の分野にも応用できるものである。(中略)MDIは南フランスに位置するニース近郊のカロスを本拠とする家族経営の会社である。ギー・ネグレ氏とチェリル・ネグレ氏が、技術者のチームと共に、経済的なエネルギーと、環境保護の厳しい要請を満たし、かつ市場で勝てる価格の新しいエンジンを開発し続けてきた」
(タタ・モーターズ・プレスリリースより 2007年2月5日)

● 町工場の海外広報戦略

ギー・ネグレ氏は元航空機製造技術者であり、のちに自動車エンジンの開発を手がけるようになった。一時はF1のエンジンの設計に携わったこともあるらしい。ニューヨーク・タイムズのリチャード・チャン記者が調べたところでは、ネグレ氏はAGSのF1に自分自身の12気筒エンジンを持ち込んでいるとのことである。F1のグランプリには採用されなかったものの、1990年のルマンでのレースのノルマM6に採用されているとのことである。(ニューヨーク・タイムズ08年2月27日)

 
F1レースのマシンに搭載するエンジンを自力で作るほどの技術者であるネグレ氏は、1993年に息子のチェリル氏と共にニース郊外に小さな工場を作り、空気だけを動力とする自動車の開発を開始した。

圧縮空気だけで動くエンジンが完成したのは2001年。さらに翌年にはエアカーの原型を完成させている。同時にネグレ氏は、実用化を目指すための投資戦略を行う代理人として、スペインのミゲル・セラデス氏と契約をし、国際広報を彼に任せて、自分たちは開発に専念することにした。ネグレ氏はフランス語しか出来ないので、貿易に詳しくフランス語とスペイン語が堪能なセラデス氏に国際広報とマーケティングを任せたのである。

MDIはスペイン語圏の国際貿易に詳しいセラデス氏を代理人にすることで、先行投資をつのり実用化を早めようとしたのだろうが、この作戦は結果的には遠回りになってしまったようだ。

海外からの問い合わせをすべてバルセロナにあるセラデス氏の事務所で扱うことにしたのだが、当然、エアカーの技術的な側面についての問い合わせが圧倒的に多い。セラデス氏側の対応は「技術的に完全であるが、その仕組みについては投資家にしかご説明できない」といったものが多く、エアカーに興味を示す人々からは逆に「ガセネタではないのか」という不信感を招くようになった。

私も何度かセラデス氏に問い合わせのメールを送ったのだが、ほとんど返事がなく、電話をしてもスペイン語での応対しかしてくれないので、MDIのエアカーの実情をなかなか知ることが出来なかった。やっと英文での返事が来たかと思うと、MDIへの株の投資を促す文書だけで、エアカーがいつどういった形でデビューするのかについては触れられていなかった。

それでも断片的な情報から、このエアカーがどうも本物らしいことがわかってきた。

最初の頃のマスコミからの質問は、圧縮空気ボンベの耐用性に関するものが多かった。エアカーには300気圧ほどの圧縮空気を詰め込んだボンベを搭載するというので「ボンベが走行中に爆発することはないのか」といった疑問が生じるのは当然であろう。

MDIでは最初の試作時点では、特殊な合金を使ったボンベを採用していたようである。空気を充填したボンベに至近距離からピストルの弾丸を撃ち込むという実験を何度も繰り返し、頑丈であることを証明する努力をしていた。

それを知った私は「事故時の衝撃はかなり大きいものと予想されるので、ピストルの弾丸の照射実験では信頼性が低いのではないか」という質問をしている。それに対して「ご指摘ごもっともなので、将来は大砲の試射によるテストなども考慮したい」という返事が届いている。

しかしその心配はすぐになくなった。合金が爆破した場合、断片が弾丸のように飛散することがわかり、炭素繊維で作ったエアバス社製のボンベを採用することになったからである。

(続く) 
posted by 菅原 秀 at 01:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 無限の代替エネルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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