20日に発売されたDays Japan1月号の記事です。編集部の許可を得てアジア・ジャーナルに転載します。さらに、詳しい情報を近日中にお送りします。
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▼雲南省から流入するメタンフェタミン
中国麻薬取締委員会の2004年9月の発表によれば、中国国内で確認されている麻薬常習者は105万人いるという。うち72%が35歳以下で、若年層に広がっている。とくに深刻な地域は、ビルマ、ラオス、タイの麻薬生産地帯「ゴールデン・トライアングル」と国境を接している雲南省である。
中国とビルマの交易額は、この10年間で10倍程度に拡大している。欧米からの経済制裁が続いている中で、ビルマにとってもっとも頼りになるのが中国との貿易である。
その結果、麻薬の製造法にも大きな変化が現れた。ビルマ国内の薬物生産者たちは、中国から輸入したエフェドリンを利用して、アヘンを精製し、メタンフェタミン(ヒロポン・注)を製造している。アヘン樹脂に比べて密輸をしやすく、商品価値が高いからだ。
そのため、最近の中国への麻薬密輸は、少量を運ぶバイヤーによって行われるようになってきた。
▼ビルマの精製所の数は拡大中
タイの国境警備当局は、2000年にはビルマ・タイ国境に55カ所のメタンフェタミン精錬所の存在を確認しているが、2004年には90カ所に増えていると報告している。
5年前までは、ビルマ国内のアヘン生産地は、シャン州東部のワ人支配地域が中心だった。ワ人は中国語を話す少数民族で、蒋介石の国民党からアヘン生産技術を受け継いだという歴史を持つ。雲南省との間を自由に行き来するワ人たちは、強力な自衛軍事組織を持ちながら、アヘンの密輸で生きながらえてきた。
しかし、2000年代に入って、国際社会の麻薬取締の圧力が強まり、ワ人による麻薬生産地はシャン州北部と、ラオス国内に移動している。また、カチン州やカレン州などにも新たなアヘン生産地が生まれている。
▼必要なのはビルマの民主化である
ビルマ政府と少数民族の確執はきわめて複雑であり、その影には常に麻薬の利害が見え隠れする。現在のヤンゴン航空や大型ホテルなどの原資も元はといえば、クンサーなどの麻薬王たちによる出資によるものである。
ビルマ政府は、対外的には薬物撲滅に取り組んでいると公言しているが、薬物精錬所の数が倍増していることから、その取り組みは疑問視されている。
あいかわらず軍事力で国民支配をし続けているビルマが民主化しない限り、ゴールデン・トライアングルからの麻薬は一掃されない。それだけは間違いないだろう。
*注 覚醒剤の一種。塩酸メタンフェタミンの日本での商品名。製造、所持、使用が法律により禁止されている。
(c)2004、菅原秀 初出「Days Japan」05年1月号
Days Japan 注文先 http://www.fujisan.co.jp/Product/1281680978/